The.Six.star.Stories.1998

SNOW CRYSTAL

 

夏をどこかに忘れてきたようだ。

あれほど暑かったのに、眩しい季節は色鮮やかに、そして冷えていく。

社会に出てつていうと変だけど、一応普通の流れで大学を卒業して就職して3年半が過ぎていた。

今日も走り回り手配屋になっている。「営業」をしていないネ。

都会というには妙な街で働いていた。

毎日勤務時間なんて15時間くらいはいる。

家に帰って自分の時間が欲しくて結局何かしてたら4時間くらいしか眠れない。

以前はそれほどでもなかったのに。

毎晩遠い空の下の君に電話していたっけ。

営業の移動中に手紙書き綴っていたりもした。

辛い日々でも、苦しいことがあっても週末に会えると思えば頑張れたし楽しみにして過ごしてきたんだ。

もうすぐ4年めの冬がくる。

夜風は冷たい。

星が光を増してきた。

本当のオリオンが姿を見せるようになる。

今は何をしているんだろう。

 

辞めるに辞めれないまま、体調を壊し、精神的に鬱病にも近いといわれ、

喜びを見いだせない。

打ち込めない。

心を失った毀れた人形のようだ。

とにかくやることもやりきれないで追われている日々。

自分で創った迷路を迷っている。

 

胃が悪くなったから控えめにしていた酒に頼るようにもなってきている。

何も見えないし見ようともしていない。

世の中もっと色々深い事情の人、境遇の人はいる。

 

そんなこと俺には関係ないけどネ。

だから元気になれる訳じゃない。

 

年末に向けて仕事だけは増えていく。

忙しいことは幸せだと思う。

そう笑ったのはいつだったのかな?

おびえているだけ。

前にすすめないな。

冷え込みも厳しくなっきた。

 

頭の片隅にはいつも恐怖が住み着いている。

そして孤独と淋しさが。

 

一日の営業を終わって会社へと戻ろうと車のドアに手を掛けた。

「今日も夜中やなぁ」

仕事帰りのサラリーマン達が遊びに向かい、叉は家路を急いでいる。

学生や若者は恋人や仲間と楽しそうに歩いていた。

思わず冷たいドアから手を引っ込めた。

ん?

街はクリスマス色に染まって道行く人たちも嬉しそうだ。

「はい、安藤です、うん、了解ッ、今から戻るから、じゃあ。お疲れさん」

携帯を胸のポッケに戻して乗り込んだ。

ドアを締めようとした時だった。

 

「あっ・・・雪だ・・・」

 

小さくて儚げな白い結晶が舞い降りてくる。

「すー」

君のことをふと思い出した。

キーを差し込んで暫くジッとしていた。

目を閉じると今も浮かんでくる。

どうしているんだろう。

 

君は今でも憶えているのかな?

冬の寒い日。

結構降りしきる雪の中をボクの部屋からバス停まで送っていった日のこと。

遊びきたメットかぶった親友とスレ違って照れていたのはボクだったな。

夜更けの京都御所をつもった雪の中、はしゃいだ仕事の後。

木の上の雪をおとしては走り回った。

あの時も、ふとこんな風に雪を見上げた瞬間があった。

 

別れて9ヶ月くらいの頃、そう一年前泣きながら電話してきて以来話もしていないな。

元気でいたらいいとか、彼女なりの幸せを見つけていたらいいなんて強がりは言えない。

逢いたいな。

 

再会もう一度出会えたなら

そう考えても

もう触れ合えないだろう。傷をふやすだけで友達には戻れない関係だねって泣いた時もあったな。

未来を紡げない二人なのに今も忘れられずに君の幻(かげ)探している

 

分かっているつもりで分からないままだ。

心の鏡に何が映るのだろう。

 

独り生きていく毎日の中で苦しみに追い込まれ、ふと貴女の優しさ心遣いを思い出して涙溢れるのもそのままに。

守っているつもりが貴女が強がりを包んでくれてたと今なら分かる。

いくつもの河が想いを流すビルと緑が交差する街。

TELしたらいい。

つないでいた携帯は胸のポッケをあたためている。

あの頃のように手紙綴ればいい。

携帯のナンバー替えられないままでいるのなら。

 

あれは夏前、学生時代の友達の結婚式の翌日だった。

大阪から帰る駅から駆け込んだ電車の中

ふとスレ違った気がした。人込みの向こうの50cmの距離に見なれた服の貴女。

動けなくて届かないまま、運命の悪戯は心を狂わせる。

 

想い出にできないまま、目を閉じれば、

「この胸の中に君は今もいるよ。」

 

一人きりの車の中は馴染んだ匂いがする。

街の灯が滲む。

 

つもるのにはまだ遠そうだ。

寒さを彩る白い粉雪が降りしきる。

会社へ戻ったのは午後8時頃、事務処理をして帰る支度をしたのは12時近かった。

また終電だ。

遊びじゃないのにネ。

ストレスもたまるさ。

ビルの外はまだ小さな雪がちらほらしていた。

忘れかけの星の光が降ってきているみたい。

「う〜寒いッ!明日電車動くかなぁ」

一瞬、空を見上げ目を閉じる。

幻を思い出す。

寂しくて目を開いた。

何一つ変っていないボクがここにいたから。

手のひらにひらひら落ちる雫。

涙の向こうに何が見えるんだろう。

「行かないと間に合わないや」

コートの襟をたてて地下鉄までの道を歩き出した。

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