The.Six.star.Stories.

午後のお茶

ロンメル侯邸宅でゆっくりとハイティーを楽しんでいたアステリアはじっと側近の言葉に耳を傾けている。白滋のカップが小さく湯気をたてていた。

もう四〇年近くも昔にあった、史実には現われない封じられた歴史。

オスカル王子が何故失踪したのか、下野したのか。一から出直した訳が見えてくるようだ。

「オスカル様、さぞお辛かったのでしょうね」

彼女がどうしてこの国に来たのか、どうしていくべきなのか。答えはまだどこにもない。

「あの時、殿下は決心なされました。闘い終結後にミラージュ騎士団の長になられたのです」

「ありがとう、無理いって教えて頂いて」

「いいえ、逆に姫様がお辛いのではと。今でもあの頃のことが目に浮かびます」

 

初陣において内紛と裏切りによって潰走するしかなく、父王を敵の手に渡してしまったこと。名誉のためとはいえその王を自らの手で討ちとり、国家防衛のために王宮をも破壊させてしまったこと。自らの血肉を吹き飛ばして闘い続けた日々。

夢見るように虚空を仰ぐ騎士の瞳は美しかった。 プラチナブロンドの軽いウェーブがかった髪がかすかに震えている。王子を人ならぬものと知って仕えるもの達。

「私は王太子殿下が、いえ、オスカル様が銀薔薇連隊を組織されたときからお仕えして参りました。この先も命果てるまでお傍におるつもりでおりまする」

一口カップの暖かさを身体へ注ぎこむと少女の白い肌に見入るように顔を向けた。

「姫様こそが我らの血肉を食らい、殿下に添い遂げられる方です」

「フォークナーさん・・・」

「・・・いつの日にか光のあることを」

再び彼は金の仮面を被る。鈍い光が部屋に一筋の明りを灯したようだ。

過去は封じるもの。

「あのキルメス殿下の気持ちも分かりますが・・・」